ザァー……







 ザァー……







 ザァー……








 2015年


 ここ地上はサードインパクトにより全ての人類が生命のスープ、LCLに還った。
 一部の愚かな者達の愚かな行為によって………世界は崩壊した建物とこの血の匂いのする赤い海。
 たった一人の少年というイレギュラーだけが存在する世界に成り果てた。
 少年はその光景から目を背け、膝を抱えてうずくまり、わずかに身体を震わせている。


「ううぅ…………うう………どうして、どうして………」


 ただ少年はその言葉を繰り返し、その度に止まっていた涙がまた溢れ出し、頬を伝っていく。
 自己を責め、同じ過ちを繰り返してしまった自分に対して強烈な自己嫌悪が少年を襲っていた。


「どうしてこんなことになったんだよ! 僕がこれを望んでいた? 違うっ!!
 そんなことないっ!! 僕がどうしてこんなことを望んだりするんだよ!!」


 少年は心の中で叫ぶ。

 少年にロザリオを渡し、彼をしかってくれた姉
 ずっと彼を、ただ見守っていた母
 ただ拒絶のみがあった父
 自分の存在意義をエヴァにしか見出せなかった茶色かかった金髪の少女
 少年に醜い真実を突き付けた、そして自分の父になにもかも狂わされた白衣の科学者
 片足を奪われ、しかしそれを奪った自分を許そうとしてくれたジャージ姿の少年
 ただ真実を求め、そして散っていった兄
 彼のことを好きだとはっきりと語った使徒だった銀髪の少年
 凍りついた感情が溶けて、人となった筈の、蒼銀髪の少女
 そして………光の閃光の中へ消えていった茶髪の少女


「もう誰もいない………もう死にたい………」

 誰もいない世界に絶望した少年は、重い体を引きずって赤い海に向かっていく。
 自分も世界の人達と同じくLCLになれば、こんな感情に振り回されること無く、永遠に心の痛みを感じなくて済む。
 少年にとっての赤い海は、最早甘美の果実にも似た安息の地にしか見えない。



 一秒でも早く赤い海に溶け込まれたい


 こんな苦しい思いをするぐらいなら皆と一緒に赤い海にいた方がましだ


 偽りに縋って何が悪い


 僕はこんなにも頑張ったんだ


 もうこれ以上は、僕には無理なんだ



 少年は罪悪感を逃れるために、必死になって言い訳を探す。
 しかし、ここにはそんな言い訳さえも聞いてくれる人物さえいない。
 結局言葉には表れず、少年の心の中で繰り返し叫ばれるだけに留まる。
 少年の頬には涙が零れ、右手にロザリオを強く掴みながら前へ進む。

 少年はエヴァンゲリオン初号機専属パイロット。
 正体不明とされていた『使徒』の名を持つ敵を殲滅してきたエース。
 裏切られ、迷い、答えを出せずに流されるままに生きてきた人物。






――――そして


      生贄に祀り上げられた――――







 しかし、シンジの願いは叶わない事となる。

 鋼を切り裂いたような轟音と共に、上空の空間が歪み始めた。
 暴風、という言葉さえ生易しい威圧感にも関わらず、シンジへの影響は何一つ無い。
 赤き空に黒点とも言うべきモノが現れ、その黒点が徐々に範囲を侵食していく。
 そして人が一人通れるぐらいになると黒点は侵食を止め、そこからとある物体が落ちてきた。


「わ〜〜〜〜〜〜〜!!」


 エコーのかかった叫び声がしたかと思うと、赤い海に大きな水飛沫が飛び散る。

「な、何?何が起こっているの??」

 シンジは現状についていけず、半ばパニックに陥っている。
 先ほどの絶望感に満ちた顔は何処へやら、驚きと困惑の色に染まっていた。

「ちっきしょ〜〜〜!!! あのくそ爺どもめ!! 今度会ったらぶっ殺してやる!!」

 くそ!! と赤い海に八つ当たりしながら、自分が落ちてきた上空を睨みつけている。
 シンジもつられて空を見上げると、先ほどまであった黒点はいつの間にか無くなっていた。
 何だったんだろう? と不思議に思いながらシンジは落ちてきた少年を見る。

 東洋系の顔つきをしていて、年はシンジと同じぐらいの年齢だろうか。
 茶色が混じった髪の毛と瞳。
 瞳の色も髪の毛の色も違うにも関わらず、何処か銀髪の少年や蒼銀髪の少女と同じ、独特の雰囲気がする。
 しかし性格はまるで違うらしく、間違っても性格が似ているとは思えない。

「あの〜〜」

 シンジが恐る恐る近づきながら話を試みようとすると、やっとシンジの存在に気づいたのか、上空から降ってきた少年はひどく驚いた顔をする。
 しかしそれも一瞬で、シンジの方に体を向けると人懐っこい顔で気さくに質問してきた。

「あれ? 君、この世界の住人?
 丁度良かった。聞きたいことがたくさんあるんだけど良い?
 なんせ俺には分からないだらけだし、この世界についてさわりだけでもいいから教えてくんない?」

「あの、あなたは?」

 質問の多さにシンジは混乱してしまい、質問の答えをせずに質問で返してしまう。
 すぐに自分の失礼さに気づいて謝ろうとしたのだが、シンジの質問を聞いた少年は、顎に手を当てて考えるポーズをとって真剣に考えている手前、シンジは言い出せなかった。

 少しすると少年はニヤリ、と邪気を含んだ笑い顔をすると自己紹介を始める。

「俺の名前? ふっふっふっ、聞いて驚くなよ?
 俺の名前は神楽キョウ。世界一の術士であり、あらゆる知識を宿している神様さ!!」

「………」

 シンジは驚き半分呆れ半分という目でキョウを見る。
 キョウはそんなシンジの心情を知ってか知らずか、軽く受け流す。

「それより君の名は?」

「僕は、碇、碇シンジ………」

「ふ〜ん、碇シンジね。
 それで、俺の質問にも答えてくれる? この世界について」

 キョウは辺りを見渡しながら何気に頷いていたりしていた。
 もしかしたらこの惨劇の原因がわかるかもしれない、と考えたシンジはキョウに問おうとする。
 しかし、何から話して言いか分からない。

 ミサトが言っていた『人類も使徒』という話も詳しくは覚えてはいないし、シンジ自身、当事者ではあったものの正確な情報を教えてもらったわけではない。
 話そうとは思うがきっかけが掴めない。
 だがキョウは何分でも何時間でも待つぞ、という感じに腕を組んで真っ直ぐシンジの事を見据えていた。
 そんな状態が十分は経っただろうか、ようやくシンジの重い口が開き始めた。


 そう、初めて第三新東京市に来たあの日からの出来事を―――



「それは――――













 シンジは全てを話した。
 全部、包み隠さずキョウに話した。
 何故自分の事を話しているのか、シンジ自身分からなかった。
 いや、心の底では分かってはいたのだ。
 まるでそこには居ないかのように、蜃気楼のように儚く消えてしまう存在みたいな雰囲気。
 性格も容姿もまるで違うが、何処か似ていたのだ。
 ファーストチルドレン、綾波レイに。

「ふ〜む、どうしたいんだシンジは?」

「僕は………僕は出来る事ならやり直したい、そしてみんなを助けたい!」

 IFの話などしても意味は無い、過去に戻る事など出来はしないのだ。
 でも、シンジは自分の本当の気持ちを聞いて欲しかった。
 本心から出る言葉はシンジの強い思いが籠められていた。

 シンジの想いを真剣に聞いていたキョウは顎に手を当て、何かを考え始める。

「(エヴァ、人類補完計画、セカンドインパクト、サードインパクトか。
 全てが上手くいき過ぎている。『ゼーレ』という組織がいかに強大だとしても、他の組織や国連が何らかの対応を取らなかったのか?
 いや、それは無いはずだ。絶対にその裏がある)」

 キョウはシンジの話で推測するが腑に落ちない点が多々あった。

 シンジの父親の行動
 委員会の表向きの目的
 セカンドインパクトの本当の原因
 そして、綾波レイという存在

 他にも色々あるのだが、シンジの話も曖昧な部分が多く参考にはならない。
 こればかりは考えても仕方がないと、頭の片隅に追いやる。
 今は目の前にある問題を片付けないといけないと考えるのを中断するキョウ。

「シンジ、過去に戻りたいのか?」

「も、戻れるんですか!?」

「戻る方法が無いわけじゃない。
 だが、今すぐシンジを過去の世界に戻すつもりは無い」

「へ? な、何でですか!! みんなを「仮にやり直してどうする? 力も無い、ただの少年に何が出来る?
 それに一人では何も出来ない。それにみんなってのは誰だ?
 世界のみんなだったら今やってきた事の繰り返しだぞ? またサードインパクトやらが起こるだけだ」

 シンジの言葉を遮り、キョウは言い聞かすように言葉を発していく。
 その言葉を聞いたシンジは何も言えなくなってしまい、俯くことしか出来なかった。

「………」

「別に助けるな、とは言ってない。
 でも人一人に出来る事には限界というものがあるんだ。
 例え使徒の力を使えたとしてもそれは同じ、最終的には何処かに犠牲が出る」

「でも!! それでも助けたいという気持ちは変わりません!!!」

 シンジの悲痛の声が周りに響く。
 キョウはポリポリと頬を指で掻くと、小さく溜め息をつく。

「シンジもう一度考えてみろ? お前のしたい事は?」

 キョウは馬鹿にするようなものではなく、子供に優しく教えるような声でシンジに質問する。

「………僕は、僕は大切な人を守りたい―――
――何ももかも逃げ出した自分のせいでこんな事になったんだ。
 でも、もう逃げ出さないって………決めたんだ。
 綾波を……アスカを……カヲル君を……そして、マナを助けるって決めたんだ」

「シンジ、一つ質問する。
 お前は自己犠牲が強い、その罪を背負って尚且つ生きていく自信はあるのか?」

 凛としたキョウの声がシンジの耳に届く。
 真剣な顔をしたキョウの目を真正面から見据え、キョウの問いに答えた。

「はい」

 簡潔な答えだが、シンジの意思が十分に感じられる答えであった。

「(なるほど、昔の俺にそっくりなのかシンジは……)」

 キョウはシンジに過去の自分を重ねていた。
 このままシンジを送り返しても上手くいかない事は自分の過去で実証済みだ。
 シンジならば大丈夫、という希望的観測は意味を成さない。
 アレは……ヒトでは倒せないから。

「80点、まあまあだな、大切なのはその心だ。
 だが自己犠牲は程々にしないと潰れるぞ。よし、過去に行く前に俺がシンジに術を教えてやる」

「へ?」

「へ? じゃねーよ、このままあっち行ってもしょうがないだろ?」

「(まさか此処まで馬鹿だとは……いや、天然か?)」

 このまま帰っても使徒にも勝てる可能性は低いだろう。
 それに初号機に入っているシンジの母親、碇ユイが自分の息子、シンジと認識するかどうかも分からない。
 話を聞いた限りでもゼーレ、ネルフ、戦自、国連の組織も無視出来ない。

「よ、よろしくお願いします!! キョウさん!」

 シンジは慌てて返事をした。しかしさっきまで自殺しそうだった顔は消えていた。

「(ま、やる気だけはありそうだな)キョウでいいよ、同い年だろ? 敬語もね」

「う、うん。よろしく、キョウ」

 シンジはサードインパクトが起きてから初めて笑顔を浮かべた。










―後書き―

改訂版プロローグ、何とか完成いたしました。
もう既に存在を忘れ去られている可能性は十分ありえますが、何とかUP。
初めて読んでくれた人、読み返してくれた人、ありがとうございます(^▽^)
因みに読んでわかるように、これはオリキャラがメインで絡んでくる物語です。
その手の嫌いな人はこの先読まない事をお勧めします。
ラブあり。戦闘あり。シリアスあり。
ギャグ……は難しいかもしれないけど、そういうのを目指して頑張っていきます。
では、改めて言わせていただきます。
読んでくれて、ありがとうございました!!


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